副社長とふたり暮らし=愛育される日々
そこを何やら弄って確かめる副社長を不安げに見上げていると、彼は少し困ったようなため息混じりにこう言った。


「これは、たぶん漏電かな」

「漏電!?」

「この分電盤もだいぶ古そうだし、そうなっても不思議じゃない。雨漏りの可能性もあるし」


雨漏りなんて! ……しないとは言えないな、こんなにボロいんだから。

手に持つスマホの明かりが、肩を落とす私をオバケのようにぼんやり映し出す。


「そんなぁ……どうしたらいいんだろう。もう十時だし、今から業者さんは呼べないし……」

「本当に漏電だとすると、結構高くつくらしいぞ」

「追い打ちかけないでくださいよぉ!」


情けない声でぼやく私に、副社長がしれっとショックなことを言うから、本気で泣きそうになる。

そんな私にかまわず、彼はブレーカーのカバーを元に戻しながら、至極冷静に言う。


「念のため、このまま電気は使わないほうがいいな。万が一火事になったらいけない」


ということは、こんな寒くて真っ暗な部屋にひとりでいなきゃいけないの? たった一晩とはいえ辛いものがある。


「ここはもうホテルに──」

「今日は土曜だから空きを探すのは難しいんじゃないか。さらに金もかかるし」

「……ですよね」


副社長にすぐさま痛い部分を突かれ、ホテルに泊まるという選択肢も呆気なく捨てた。

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