副社長とふたり暮らし＝愛育される日々
「明日も、それ以降でも、もし何か困ったらすぐ電話しろ。俺にできることならなんでもしてやるから」


心強い言葉に、心の奥からじわじわと感動が込み上げる。

なんて頼りがいのある人だろう。特別親しいわけでもない私を、こんなに気にかけてくれるなんて、海のようにお心が広い。


「ありがとうございます。本当に、何から何まですみません」


感激しながら何度も頭を下げていた、その時。ソファの傍らに置いてある私のバッグの中で、スマホが音を立て始めた。

この着信音は電話だ。副社長に「出なよ」と言われ、断りを入れた私は、バッグからスマホを取り出す。

そこに表示された名前を見て、目を見開くと同時に叫んだ。


「お兄ちゃんっ！」


副社長も驚いたように目を丸くする。しかし、これまでの憤りが一気に湧いてきた私は、彼を気にせずすぐさま“千紘お兄ちゃん”と映し出される画面をタップした。

向こうから聞こえてきたのは、ひとりテンション高めの明るい声。


『遅くなってごめん瑞香！　ハッピーバ──』

「呑気に電話なんかかけてくるな、このあほんだらー!!」


うっぷんを晴らすように悪態をついた私に、隣の彼がギョッとしている。

おそらく同じ反応をしているだろう、若干天然の兄の、戸惑いに満ちた声が聞こえてくる。

< 63 / 265 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop