副社長とふたり暮らし=愛育される日々
ちらりと隣を見ると、“俺?”とでも言うようにキョトンとする副社長と目が合った。

あなたしかいないですよ。何を考えているのかわからないのになぜか信頼してしまう、不思議なサンタクロースは。

お兄ちゃんには、家の電気が使えなくなってしまったことと、今は友達の家にいるということを軽く説明しておいた。男性の家にお泊りするなんてことは口が裂けても言えない。

一部始終を聞くと、お兄ちゃんはとっても申し訳なさそうに謝る。


『そんな大変な時にひとりにさせて、本っ当にすまない! それに、ちゃんと瑞香の顔を見てお祝いしてあげたかったんだが、どうしても抜けられない用があって……』

「もう怒ってないよ。お兄ちゃんが相変わらず元気そうだってわかったから、それでいい」


私は穏やかな口調でそう返した。もし、今もあの家でひとりだったら、お兄ちゃんに泣きついて困らせていたかもしれないけれど。

私の名前をぽつりと呟いたお兄ちゃんは、少し黙り込んだあと、切実そうにこう告げる。


『春には帰れると思うんだ。だから、もう少しだけ待っててくれ』

「……うん。期待しないで待ってる」


ちょっぴり嫌味っぽく言うと、お兄ちゃんは『期待しとけ』と口を尖らせていたけれど、具体的な時期を言ってくれて、本当は嬉しかった。

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