副社長とふたり暮らし=愛育される日々
電話を終えると、すでにお皿を綺麗にしていた副社長が淡々と言う。


「ワケあって帰ってこない兄貴がいるのか」


今の電話の内容を聞いて察したらしい。私は「そうなんです」と苦笑する。


「私の家族、今はお兄ちゃんしかいないんですけど、突然いなくなっちゃって。どこで何やってるのかすごく心配だけど……でも絶対帰ってきてくれるとは思うんで、おとなしく待ちます」


やっぱりひとりは寂しいけど。というひと言は、心の中でつけ加えておく。

詳しく聞かれるかと思ったけれど、副社長は何も詮索はしてこなくて、伏し目がちに微笑みつつ、「そうか」と頷くだけだった。


それから、ケーキを食べ終えた私は、先にお風呂に入らせてもらうことに。

お兄ちゃんから電話をもらえたことで、少しだけ気がラクになったから、お風呂に入ったらさらにリラックスできるかな。

……なんて思った私がバカだった。


「……いい匂い」


ふたりで入っても余裕がありそうなバスルーム。その中に充満するシャンプーの香りを嗅ぎ、髪を洗いながら呟いた。

良さそうなシャンプーだったから同じものを使わせてもらったけど、これが副社長の香りなのだと思うとドキドキしてしまう。

毎日ここに彼が入っているんだ……と思うと、無意識にセクシーな入浴シーンを想像してしまうし。まったくリラックスできないうえに、鼻血が出そうになる。

私って、どえらい変態だ。

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