副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「お前……ダメだろ、これは」


彼の口から出たのは、欲しかった反応ではない否定的な言葉。

お気に入りを否定されたことにちょっとムッとして、私は仏頂面になる。

フードを被ったまま、「可愛いじゃないですか」と言って詰め寄ると、副社長はふいっと顔を逸らした。


「ダメだ。……抱きしめたくなるだろが」


厳しい声色とは裏腹に、甘い言葉が飛び出して、私は一瞬ぽかんとする。

抱き、しめたくなる…………って!?


「はっ!?」


思わずすっとんきょうな声を上げると、副社長は片手で口元を覆いながら、珍しくもごもごと話す。


「俺は昔から猫が好きなんだ。その、もこもこふわふわした感じなんてたまらない」

「そ、そうなんですか」


だからテレビの横に猫ちゃんがいるのね、と納得しつつ、意外すぎる副社長の姿に驚く。

そっぽを向いている彼の頬は、若干赤くなっているようにも見えるし……ある意味、このルームウェアより可愛い。こんな顔が見られるなんて超貴重!

私の中のイタズラ心がむくむくと芽を出し、いつも余裕のこの人をかまってみたくなる。


表情はあまり変わらないけれど、ほんのり赤く染まる顔を覗き込み、両手を丸めて「にゃー」と鳴いてみた。

二重の瞳が大きく見開かれた瞬間、彼の手が私の両肩をぐっと掴む。

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