副社長とふたり暮らし=愛育される日々
昨日、キッチンのことはある程度聞いておいたし、冷蔵庫の中身も確認させてもらったから、手際良く調理を進めていく。

と言っても、作るのはお味噌汁や玉子焼きといった定番メニューだけど。

作り始めて十五分ほど経った頃、カウンター越しに副社長が起き上がるのが見えた。くしゃくしゃと頭を掻きながらこちらに向かってくる彼に、「おはようございます」と挨拶すると、まだ眠たそうな顔でふにゃりと笑う。

か、可愛い。髪の毛がぴょんと跳ねているところも、緩いカーディガンを羽織った姿も、いつもの副社長とは全然違ってキュンとする。

彼は私の斜め後ろ、キッチンの隅にある冷蔵庫に向かいながら、少し掠れた声で話しかける。


「おはよう。眠れた?」

「はい、ありがとうございました。ご飯できるまで、ちょっと待っててくださいね」

「ありがとう。何年ぶりだろうな、こんな朝は」


冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出した副社長は、そのフタをひねりながらこんなことを言う。


「若い嫁さんもらったみたいで、悪くない」


よ……ヨメ!?

ドッキンと心臓を跳ねさせ、卵を掻き混ぜる手を止めて振り向けば、彼はクスッといたずらっぽく笑ってゴクゴクとお水を飲み始めた。

なんだか恥ずかしくて耳が熱くなる、けど……。副社長と、こんな新婚さんみたいな朝を迎えられることは、たしかに悪くない、かも。

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