副社長とふたり暮らし=愛育される日々
だから、私がモデルという副業をしていることは、この七恵以外は知らない。

なぜ普段とは対称的なモデルなんかをしているかというと……。

もっとお金を稼ぎたいと思っていた今年の初春、ユーフォリックモードに勤める七恵が、たまたま新商品の広告用のモデルを捜していて。

『いい仕事があるわよ!』と、少々うさん臭い言葉をかけられ、履歴書片手にとりあえずついていったらそのオーディションの面接だったのだ。

飛び入り参加のようなものだったのだけど、その場で書類審査も突破し、なぜか面接官のハートを掴んだらしい私は予想外にも採用され、あれよあれよと事が進められていった。

私が初めてイメージモデルを勤めたのは、この化粧品会社のオリジナルブランド、“Mimi(ミミ)”の香水。

今日撮影していたのも同じだ。というか、私はMimiの撮影しかしない。


「“りら”の評判、うなぎ登りだって聞いてるでしょ? 正体明かしてこっちを本業にすれば、きっと一気にのし上がるわよ」


片手を握って意気揚々と言う七恵だけれど、そんな気がない私は素知らぬふりで、鏡に映る無造作にカールしたボブの髪を手で整えていた。

Mimiの専属モデルである、りら。その素顔は誰もわからないと、ネットで評判になっているらしい。

それもそのはず。私の本名も、正体も極秘にしてくれと、採用された時にお願いしていたから。

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