副社長とふたり暮らし=愛育される日々
たった一日で、彼はこんなにも私の中に居座ってしまった。これを恋と呼ぶのか、そうでないかはまだわからないけれど、確かなことはひとつ。

私は、彼と一緒にいたいと思っている。


「私には、副社長が必要なのかもしれません……」


自然とそんな言葉がこぼれた。けれど、あとになってはっとする。

今、ものすごく恥ずかしいことを言ってしまったのでは? 私は、甘えるようなことを口にするタイプじゃないのに。

急激に顔が熱くなってきて俯くと、ぽんっと頭に手が乗せられた。目線を上げれば、魅力的な笑みを浮かべる副社長がいる。その顔がどこか嬉しそうに見えるのは、私の自惚れだろうけど。


「なんだか捨て猫を拾った気分だ」


大きな手で私の後頭部を包むように撫でながら、彼はそんなことを言った。

そうか、捨て猫か……。だから放っておけないんだな、と妙に納得する。

私に特別な感情があって、“一緒に暮らさないか”と言ったわけじゃない。そんなこと、あるわけがないのだ。

ホッとしたような、物足りないような、なんとも言えない気持ちを抱いていると、副社長は真面目な顔で人差し指を私に向けてくる。


「でも、あの猫耳ルームウェアは禁止な」

「えっ、寒い……!」


フードは被りませんから!と言って説得し、再び荷物をバッグに詰めていく。

期間限定の新しい生活に、緊張と少しの高揚感で胸をざわつかせながら。




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