副社長とふたり暮らし=愛育される日々
転機=小悪魔男子のアプローチ
翌朝も、副社長はやっぱり平然としていて、私は本当に夢を見たんじゃないかと思うくらいだ。
スタジオで七恵にメイクされている間も、昨日のことを考えてぼーっとしてしまう。
鋭い彼女には「何かあったんでしょ?」と詮索されたけれど、今話すと撮影に集中できなくなりそうだなと思い、終わったら話を聞いてもらうことにした。
しかし、昨日のことを考えずにいられるわけがなかったのだ。なぜなら。
「海都くん、後ろからりらちゃんに軽く腕を回してみようか」
カメラマンさんの指示に従い、背後からふわりと包まれる。その瞬間、頭には勝手に彼の言葉が再生される。
『もし、こういうことを要求されたら思い出せ。俺を』
また耳元で囁かれているような錯覚に陥り、心臓が暴れ始める。
言われなくても思い出しちゃうよ。同じ体勢なんだもの、副社長のことを考えないほうが無理な話だ。
でも、彼のことばかり考えてしまっているというのに、不思議とダメ出しが入らない。
「すごくいいよ。じゃ、ちょっと見つめ合って微笑んで」
気分が良さそうなカメラマンさんの声で、私は海都くんを見上げる。
彼は相変わらずの天使のような笑みを向けてくれて、つられて微笑んでしまうけれど、心にあるのはやっぱり別のこと。