謎解きソルフェージュ
それでもその通り口にすることは、なんとなくはばかられた。
犯罪捜査に関わりたいという夢を抱いている自分なりの、ささやかなプライドだろうか。

「え、えーと・・・四月朔日って書いてワタヌキさんて、変わった名字だと気になりました」

苦し紛れに口から出たのは、そんな台詞だった。

ふむ、と泉が口の中でつぶやいた。
「鋭い指摘だな」

からかわれているのかと思った。
だけれど相変わらず彼の瞳は、感情を映すことなく透き通ったままだ。

「判じ物の名の一種だな。
四月の朔日に衣替えで着物の綿を抜くところから、四月朔日でワタヌキってとこだろう」

なるほど。さすがに博識だ。

「水埜、博士はなにかお分かりになったんですか?」
逆に聞いてみる。

まあ、とつまらなそうにつぶやいた。

「えっ、なにか手がかりがつかめたんですか?」

「俺の推論が———」いったん言葉を切る。
「当たっていないといいと思う」

会話がかみ合っていないと思うのは、気のせいか。
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