謎解きソルフェージュ
日々、人間観察に勤しんでいるのは、心理学に携わる者ではなく、演出家や役者、あるいは詐欺師など、他者の表層を真似ることを飯のタネにしている者だろう。


「すこしばかりレクターの真似でもしてみようか」
泉が、スキャンするように鞠子の全身に視線をめぐらせる。

「襟のまるいシャツブラウス、ひざ丈のフレアスカート、ラウンドトウのヒールの低いパンプス、髪型はショートボブでメイクは薄め」
一つ一つあげてゆく。

「尖ったところは、一つもない。ごく普通の小柄で可愛らしい女の子です、と言っているような格好だ。
特に人目をひくこともなければ、他者から眉をひそめられることもない。
主張があるのは、手首の時計だけ」


自分に不似合いなことは承知している。

「古い型の男物の時計だ」
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