謎解きソルフェージュ
「———父の形見です」

「そんなところだろう」
泉はあっさりとうなづく。


「きみには類型を外れたところはなく、外れる気もない。
だけれど、譲りがたい信念も持ち合わせている」

「———おっしゃる通りです」
だから、と言葉をつづける。

「水埜博士がこの事件のことで掴んだことがあるなら、教えて欲しいです」

「気が進まない」

「どうしてですか?」
声が尖り、なじるような物言いになってしまうのを止められない。


「逆にどうして、きみはそんなに事件の手がかりとやらを聞きたがるんだ?」


「凶悪殺人犯によって、もう四人も犠牲者が出ているのに。
犯人を野放しにしておいていいんですか?
こうしている瞬間にも、新たな犠牲者が出るかもしれません。
被害者の遺族の方は苦しみつづけて、捜査員は炎天下で聞きこみを続けているんです。それなのに・・・・」

この人は悠然とソファに腰をおろしたまま、「気が進まない」などとのたまう。
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