謎解きソルフェージュ
教えて、お願い———

「今日言えるのは、ここまでだ」

「そんな・・・」
おあずけをくらった犬の気分だ。さぞかし恨めしげな顔をしていることだろう。

「さて、交換は等価。見合うものを俺にくれないかな」

「み、見合うもの・・」
まごついて、指はスカートのすそをいじる。

「キスくらいでいいか」

どうして声も表情も、なにも変わらない。

そんな彼を前に、泣きたいのか怒りたいのか、自分でもよく分からない。


彼から逃れる術はない、ということは苦しいほどに分かっている。

こぶしをにぎって、立ち上がる。
そのままの勢いで彼に向き直り、泉の頬を両手ではさみこむように押さえると、かがんで顔を近づける。

視界のすべてが彼の顔で埋まる。
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