謎解きソルフェージュ
第四章/そして涙流れる


八月某日、麹町。


———本当にあったんだ・・・


二週間ぶりに水埜邸を前にして胸にわいてきたのは、そんな想いだった。

夢を見ていたような・・・と表現できるほどやわらかな体験ではなかった。
いうなれば、異空間に迷い込んでしまった如き時間だった。

もう一度訪れてみたらそこにはなにもなく———どこかでそんなムシのよい想像をしていた自分の甘さを、建物を目の当たりにして思い知る。

六十年以上ここに在りつづけたものが、二週間で消えるわけがないのに・・・

観念して、呼び鈴を押した。
あとは前回と同じだった。誘導どおりに、泉の書斎まで足を進める。
今回はアタッシュケース無しだ。

邸の主は、今日はソファに身を起こしていた。半身をひねってこちらを見ている。

おじゃまします、と頭をさげる。
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