謎解きソルフェージュ
付き合っていた女に逃げられた———と事実はかなり歪曲されていたが。

皆本が教えたのが、中里千香の連絡先だった。

「俺からの紹介っていえば通じるんで。
情報屋みたいな女っすよ。金払えば、住所を調べてくれるから」


実際のところ、中里千香は情報屋などではなく電力会社のカスタマーセンターの契約社員だった。

顧客からの電話相談の窓口。ようするに苦情の受付係だ。

「米を炊いている途中でブレーカーが落ちた、今すぐ炊きたての米を持ってこい」
だのなんだの、理不尽なクレームを受け続けるのが仕事だ。

来る日も来る日もひたすらヘッドセットを装着し、電話をとり、「申し訳ございません」とくり返すだけの仕事。

中里千香がそこで目を付けたのは、膨大な個人情報だった。
端末をたたくだけで、契約者の氏名と住所が検索できる。

戸籍ではないので、分かるのは契約者の情報のみだが、それだけでも何百万という数だ。
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