謎解きソルフェージュ
これを金にできないか、と中里千香は思いついた。

罵詈雑言に耐え、安い賃金で無益な電話応対を続けているのだ。
それぐらいの見返りがあってしかるべきだ、と思ったのかはともかく。

知り合いにそれとなく口にするようになる。
「探したい人とかいるなら言ってよ、お金はかかるけど」

皆本のいう「アブナい方面とのコネ」などしょせんその程度のものだ。

アパートを借りて一人暮らしをしていた美也は、当然自分の名義で電気の契約をしていた。

もし、ありふれた名前であったら、何百万人という集団のなかに埋没することができたかもしれない。
だが、四月朔日美也という珍名は、それを許してはくれなかった。キーボードを数度叩いただけで、苦もなく見つけ出されてしまう。

美也の住所は、中里千香から富樫道夫に、三万円で売られた。

そして———血は流れる。


中里千香の職歴と金回りを調べる必要がある、という泉の言葉。

中里千香は、四月朔日美也殺害事件後ほどなく、電力会社のカスタマーセンターの職を辞めている。
自分が個人情報を売った女性が殺害されたことに気づいてのことなのか、もはや定かでない。
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