謎解きソルフェージュ
「俺なりの悼みだ」

イタミという語句を悼みという意味に置き換えるのに、コンマ数秒を要した。

「俺が四月朔日兄のためにできることは、なにもない。亡くなってしまったらもう、オムライスは食えない。せいぜいきちんと味わって食べようと思った」

最後まで食べなよ、と言われて、スプーンをぎゅっと握りなおす。

涙の味がするオムライスを、それでもライスの最後の一粒まですくって平らげた。


勘定はなぜか、泉がもってくれた。

「あの・・払います」
店を出たところで食い下がる。

いーよ、とすげなくかわされる。
「誘ったほうが払うのが礼儀だし、俺のほうが自由になる金が多そうだ」

そう言われては返す言葉がない。

とくに会話もなく、泉の家までの道をまた歩く。
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