謎解きソルフェージュ
今日も暑い。
午後の陽炎が、アスファルトの道路からゆらめきたっている。

彼の邸へつづく私道の前で、鞠子は足を止める。駅はこの先だ。

「あの・・・わたしはここで」
今日はどうもありがとうございました、と頭をさげる。

川瀬鞠子、
後頭部に声が落ちて、あわてて顔を上げる。

泉のほうが頭ひとつ分は背が高いので、向かい合っていると見下ろされるかたちになる。

「きみに、また、会いたい」
と彼が言う。

「ぇ・・は・・・」

突飛すぎる台詞に、思考は停止し口も停止する。

ぽかんとする鞠子を残して、泉はすっと背をむけた。彼の邸へと戻ってゆく。

その背がゆらめいて見えるのは、陽炎のせいか———
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