謎解きソルフェージュ
「動くな、おとなしくしてろ」
まだ若い男だった。

なんだ、震えてるじゃないか、声も体も。
こんなガキひとり、刃物に頼らなければ脅せないのか。

すくんで動けないふりをしておいて、車に引きずり込もうとする男の片目に親指を捩じ込んでやった。

目を押さえ悲鳴をあげる相手からナイフを奪い、履いているスニーカーの上から、突き立てた。
ずぶりと食いこむ手ごたえ。
わざわざ入手したのだろう。新品の切れ味のいいサバイバルナイフだった。

それからおもむろに、自分の携帯電話で警察に通報した。
ほうって帰ろうかとも思ったが、相手の素性に興味がわいた。

さて、どこのどいつだ。

だいたい、これだけぎゃあぎゃあ喚かれれば、何事かと人がやって来るだろう。

結果、取り調べを受けることになったのは、泉のほうだった。
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