謎解きソルフェージュ
たかが小学生相手にご苦労なことだ。

「なるほどねえ」
川瀬警部補はしんから感心したように、言葉を吐いた。

「うちにも小さな娘がいるから、他人事じゃないな。気をつけないと」

へぇ、それはそれは。
さぞかし子煩悩な父親なんだろうなと、苦もなく想像できた。

「相手に反撃することを、ためらわなかったかい?」

「ためらう余裕は、僕にはなかった」
そう口にするのが苦しい、と感じた。
「———やらなければ、やられていた」

「そりゃそうだ、理解力は十分にあっても、きみはまだ子どもだものな」

なぜかだんだんと、彼と話していると居心地が悪くなってくる。
不快というのではない。

「他に自分の身を守る方法を思いつかなかったんです」

「泉くんほどの洞察力があれば、犯罪捜査に役立つのになぁ」
惜しそうにつぶやく。

———きみは間違ってない。

こっそりささやかれた言葉。

そう言ってほしかったのか、俺は。
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