謎解きソルフェージュ
あまりにも誠実な存在。
愚直ともいえるほどの善なるものを、前にしたせいか。

このひとは、と川瀬警部補を見て思う。

人間を信じているのだ。
日々、人間の醜悪さ、残忍さを目の当たりにする職業に就いていながら。
それでもなお、人の本性は善だと信じている。

泉は生まれて初めて、自分を羞じた。
目の前のひとを見下していた、自分の心の有り様が、どこか卑小なものに思われて。

非行少年扱いしていた小学生が、自分たちの上官の親戚筋だと分かるや、手の平を返してくる大人を軽蔑する一方で、川瀬警部補の存在は泉の記憶深くにとどまった。


泉を襲って返り討ちに遭った件の男は、自宅の敷地内に建てた離れを一人で使って住んでいた。
その後の捜査で、彼のロリコンメディアに溺れた生活が明るみに出ることになった。

人相や車種の目撃情報から、おもに小学生を狙った幾つかの猥褻事件の容疑者として浮上した。
後日、起訴されたという話だ。
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