謎解きソルフェージュ
「日本の警察組織の腐敗と堕落を、体感した気分はどうだい」

牧 紀明はそんなことを言ってきた。

「まんざら捨てたものでもなかった」

泉の返事に、意外そうに目を見張る。

「川瀬警部補に会った」

ああ、と得心したようにうなづく。
「なんとも一途な男だろう。この残酷な世界に咲いた一輪の花のような」

中年男性にその例えはいかがなものかと思ったが、言わんとすることは分かる。

「ああいう男は長生きできんだろうな、残念ながら」

「へえ、どうして」

「あの自分をすり減らす働き方じゃ、早晩倒れるだろう。いい人は早死にするというやつだ」

「たしかに」

言いながら、自己嫌悪をおぼえる。人の生き死にをゲームの展開のように予想している自分に。
あるいはこれが、地球人のもつ感情というやつなのか———

「あなたは長生きしそうだ」
そう牧 紀明に言った。

「むろんそのつもりだ」
片目をつぶってみせる。

俺はどうだろう。ふとそう思った。
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