純情シンデレラ
列車内ではこれといった会話をしなかったけれど、沈黙と列車の揺れは、今日、仕事が忙しかった私にとって、とても心地良く感じた。
松本さんが「しゃべり続けないと間が持たない」と思っている人じゃなくて良かった、なんて思いながら、私の最寄り駅である柳谷(りゅうこく)駅で、私たちは降りた。



「雨、止んでますね」
「ああ」
「明日も雨かな」と言った私は、社内報づくりの時をふと思い出したように、「今の時季は新聞配達するのも大変ですよね」と言った。

「そうだな。君は・・将来、何になりたいと思っていたんだ?」
「子どもの頃の夢ですか?」と聞き返した私に、松本さんは頷いて肯定した。

前を向いた私は、気持ち、顔を上げた。

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