純情シンデレラ
「何故君は、俺に何も言わなかったんだ」と言った低い声は怒りを抑えているけれど、まるで子どもを叱る親のような口調に、今度は私の方の堪忍袋の緒が切れた。

「あなたは元々知らなかったことでしょう?なのに、どうしてあなたにわざわざ言わなきゃいけないのよ!それに、こんな・・・私はやましいことなんて何もしてないのに、なんで“あなたが”、私をたしなめるような言い方をするのよ!」

大柄な松本さんは私を見おろし、そしておチビな私は松本さんを見上げて、2・3秒ほど睨み合っただろうか。
松本さんが静かに「俺は知りたかった」と言ったことで、その場の沈黙が破れた。

途端に私の視線が、松本さんからグラリと揺らいだ。
そして私は俯きながら、ずり落ちていないメガネを上げる仕草をすることで、必死に心の落ち着きを取り戻そうとしていた。

< 301 / 530 >

この作品をシェア

pagetop