お別れ記念日
お別れ記念日


なぜ、こんなことを言われたのか分からなかった。


「恋人という関係を綺麗に終わらせたい」


突然、宏樹さんからそう告げられた。






今日の待ち合わせは今まで利用したことがないちょっぴり高そうなホテル。


仕事が終わりに、化粧を直し、持ってきてたお気に入りの紺のワンピースを身にまとい、去年のクリスマスに宏樹さんからプレゼントでもらったコートを羽織る。


息を吐けば白くなるほど外は寒い。


いくらタイツをはいているとはいえ、足元はかなり冷える。


せめて上半身だけでも暖かくしたいと思い、マフラーをグルグルに巻き付けた。


マフラーに顔を埋めながら、職場から駅まで歩いて電車に乗る。


目的の駅に着くとそれからまたホテルに向かって歩く。


ネットでホテルのページを開き、外観の写真と地図を頼りに道を歩いていく。


クリスマスが近い時期だからだろうか、至るところでピカピカと光が輝いている。


街中を歩くカップルたちは手を繋いだり肩を抱いたりしている。


その姿を見るとちょっぴり惨めな気持ちになる。


しばらく歩いていると、自分のスマホの画面に表示されている画像と同じ外観の建物を見つけた。


ああ、ここだ。


歩いて近づくと建物の高さがよく分かる。


ラブホテルでもなく、安いビジネスホテルでもなく、"ホテル"だ。


“最後は素敵な夜を過したい“


彼はそう言い、このホテルを予約した。


左手首につけている自分の腕時計を見る。


20時ピッタリ。


約束の時間は20時だ、ちょうどいい時間。


……予約した本人は仕事で遅れるらしいけども。



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