お別れ記念日
半年ほど前に宏樹さんの部署が変わり、彼は今まで以上に残業が増え、忙しくなっていった。
同じ職場にいるのにデートの日程を合わせるのが難しくなっていった。
それでもワガママを言って彼を困らせたりはしていない。
彼の仕事に対する姿勢に惹かれたから。
彼の仕事の邪魔だけはしたくなかった。
……それが逆にいけなかったんだろうか。
やっぱり、なんであんなことを言われたのか分からない。
2年記念日はお別れ記念日へと姿を変えてしまったのだ。
色々な感情が溢れてきて、目頭が熱くなってきた。
宏樹さんと別れたくないよ……。
過去の思い出が頭の中をめぐる。
普段のデート、お互いの誕生日、クリスマス……たくさんの時間宏樹さんといた。
ああ、もうダメ、この幸せな思い出たちが今のわたしには辛すぎる。
涙が溢れそうになった時、
「景子、お待たせ」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「宏樹さん」
職場でいつも見るスーツ姿で彼は現れた。
泣きそうな顔を見られたくなくて、少し俯く。
「ごめんね、オレが予約したのに遅刻しちゃって」
時計を見ると20時30分を指していた。
「ううん、大丈夫」
大丈夫じゃない、まだ色々な心の準備が出来ていない。
受付に向かう宏樹さんの背中についていく。
ああ、この後ろ姿好きだな。
受付の人が部屋の前まで案内してくれた。
宏樹さんはカードキーを受け取り、受付の人がエレベーターに乗ったのを確認した後、部屋のドアを開けた。
まず目に入ったのは大きなベッド。
ダブル……じゃない、もっともっと横に広いベッド。
ベッドの奥には大きな窓があり、そこからビルがいくつも連なって光を発している。
「すごい、綺麗」
こんなに大きな窓で夜景を見たことがない。