失恋相手が恋人です
葵くんはゆっくりと視線をあげて、私を切な気に見つめる。

「俺もずっと……好きだった。
今も……沙穂が好きなんだ」

とても低くて小さな震えるような葵くんの声に。

私の心臓がドクンっと大きな音をたてる。

私は葵くんの両頬を両手で挟んだまま。

「……ごめんね」

小さな声で伝える。

葵くんはゆっくりと首を横に振って、黙って私を見つめ返す。

その焦げ茶色の瞳がとても色っぽくて。

魅入られたように動けなくなる。

葵くんは私の両手を外して。

代わりに私の両頬を大きな手でそっと包んで。

再び私に長いキスをした。

それからもう一度唇を離して。

さっきとは比べものにならない激しいキスをした。

葵くんの舌が私の舌に絡んで。

確度を変えて何度も繰り返し口付けられる。

私がのみ込まれてしまいそうな貪るようなキスに私は再び身体の力が抜けそうになる。

私の唇を何度も行き来する葵くんの舌に私は翻弄されて。

本当に足の力が抜けそうになったとき、以前よりガッシリした腕で受け止められた。

そのまま再び葵くんの胸の中に抱きしめられて。

葵くんが私から少し身体を離して、私の前髪を掻きあげる。

綺麗な目を細めて私の額に優しいキスを一度落として。

葵くんが口を開いた。

「沙穂に話したいことがたくさんあるんだ。
……一緒に来て」

私は相変わらず葵くんから目を離せずにいて。

葵くんに抱きついたままコクンと頷いた。

葵くんはふっと口角をあげて。

私の身体から手を離して、以前のように私の左手を自分の右手に絡めた。

そのまま繋ぎあった手を綺麗な弧を描く口許に持ち上げて。

「……ごめん、何か不安なんだ。
ずっと沙穂に会いたい、触れたいって思っていたから……こうやって沙穂に触れていないと現実と思えなくて」

低く甘い声で囁かれて、真っ直ぐ熱のこもった瞳で私を見つめる葵くん。

私は嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になってしまって俯く。

そんな私の頭をポンポンとあやすように左手で触れる葵くん。

葵くんが触れている手や頭がとても熱い。

「……沙穂のその表情、久しぶり」

フッと葵くんは優しく微笑む。










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