失恋相手が恋人です
「私……本当に自分勝手だけど……。
葵くんの……傍にいたいって思ったの、どんな形でも。
……私も誰かに失恋したって言ったら少しでも私を傍に置いてくれるかなって……興味をもってもらえるかなって思ったの……。
葵くんの失恋を利用するつもりも、つけこむつもりもなかったの。
私が葵くんを……ずっと好きだったって気持ちは封印しようって思ってた……」

泣いてはいけないのに、思い出して泣くなんて、まるで自分を可哀そうがっているみたいで、ずるくて情けない気がするのに。

私の目からは涙がひとつ零れてしまった。

葵くんはそんな私の涙を、黙ってゆっくりと長い指ですくってくれた。

「……でもどうしても上手に隠せなくて。
ダメだって思うのに。
葵くんのことをひとつ知る度に。
一緒にいる時間が増えていく度にどんどん葵くんに惹かれて、ますます好きになっていく自分がいて」

私は俯く。

「葵くんはいつも真っ直ぐ私を見つめてくれて。
こんな私を大事に大切にしてくれて。
……好き、って言ってくれて。
信じられないくらい嬉しくて。
その時にはもう私、後戻りなんてできないくらい、葵くんが大好きだったの……」

「……沙穂」

葵くんが小さく私の名前を呼ぶ。

私はかぶりを振る。

「なのに、私はずっと本当のことが言えなくて。
葵くんに誰に失恋したの?って聞かれた時でさえ、本当のことが言えなくて……言ったら葵くんに……嫌われてしまうこと、一人になってしまうことが辛くて恐くて……私がずるくて……」

泣いてはいけないと自分を戒めるけれど、私の涙は止まらなかった。

私は乱暴に涙を拭う。

< 106 / 117 >

この作品をシェア

pagetop