失恋相手が恋人です
その時。
ふわりと葵くんの香りが漂って。
私は葵くんの胸の中に優しく抱きしめられていた。
「……沙穂、本当にもういいんだ……。
……何となく……わかってたんだ。
沙穂が何かをいつも言いたそうにしていること。
俺といる時に嬉しそうな顔をするけれど、一瞬、すごく辛そうな表情をすることも。
……それがいつも何かわからなくて、俺じゃダメなのかっていつも、もどかしくて悔しかったんだ。
……失恋したヤツのことをずっとずっと今も忘れられないのかって……。
けど、俺がそれを聞いて、沙穂が離れていくことになったら耐えられないって思ってた」
綺麗な焦げ茶色の瞳が辛そうに揺れる。
「ごめん、ごめんなさい……っ。
ずっと言えなくて、嘘をついてごめんなさい……っ」
泣きじゃくる私の目を見つめる葵くんはとても穏やかな表情で。
「だからもういいんだって、沙穂。
あの日、沙穂、謝ってくれただろ?
俺、あの時やっとわかったんだよ、沙穂が言いたかったことが。
だけど、何でそれが別れるっていうことになるのかわからなかったんだ……。
俺にとったらそれは大したことじゃなかったんだよ。
騙された、とかも思ってなかった。
でも、そんな簡単に別れを選択したことがショックだった。
沙穂にとって、俺と別れることはそんなに簡単で迷いがないものなのかって。
別れることになるくらいなら……ずっと言わないでいてほしいって思った……」
葵くんが言わなきゃ良かったんだ、とあの日、私に言ったことを思い出す。
私はあの時、自分を非難されているんだって思った。
嫌われてしまったと。
……真逆の意味だったなんて……。
「……ちゃんと、最初から本当のことをお互いに話していたら良かったんだよね……」
ポツリと私が漏らすと。
「今だからこそ言えるけど……それはどうかな……。
あの時、俺はまだまだガキだったから、きちんと知り合う前の沙穂が普通に話しかけてくれても、もしかしたら嫌な態度をとったかもしれないし。
付き合ってみて、どんどん沙穂を好きになっていったからさ……。
最初から気になって惹かれていたんだと思うけど、いつからかって言われたらハッキリしていないんだ。
ただ、沙穂は桐生とよくいるって話を聞いた時、自分でも驚くぐらいにイライラしたんだ。
俺がいるのに、何で桐生と、ってさ」
葵くんは私を腕に閉じ込めたまま私の頭に小さなキスを落とす。
「……そんな自分に驚いたんだ……」
独り言のように呟いて。
ふわりと葵くんの香りが漂って。
私は葵くんの胸の中に優しく抱きしめられていた。
「……沙穂、本当にもういいんだ……。
……何となく……わかってたんだ。
沙穂が何かをいつも言いたそうにしていること。
俺といる時に嬉しそうな顔をするけれど、一瞬、すごく辛そうな表情をすることも。
……それがいつも何かわからなくて、俺じゃダメなのかっていつも、もどかしくて悔しかったんだ。
……失恋したヤツのことをずっとずっと今も忘れられないのかって……。
けど、俺がそれを聞いて、沙穂が離れていくことになったら耐えられないって思ってた」
綺麗な焦げ茶色の瞳が辛そうに揺れる。
「ごめん、ごめんなさい……っ。
ずっと言えなくて、嘘をついてごめんなさい……っ」
泣きじゃくる私の目を見つめる葵くんはとても穏やかな表情で。
「だからもういいんだって、沙穂。
あの日、沙穂、謝ってくれただろ?
俺、あの時やっとわかったんだよ、沙穂が言いたかったことが。
だけど、何でそれが別れるっていうことになるのかわからなかったんだ……。
俺にとったらそれは大したことじゃなかったんだよ。
騙された、とかも思ってなかった。
でも、そんな簡単に別れを選択したことがショックだった。
沙穂にとって、俺と別れることはそんなに簡単で迷いがないものなのかって。
別れることになるくらいなら……ずっと言わないでいてほしいって思った……」
葵くんが言わなきゃ良かったんだ、とあの日、私に言ったことを思い出す。
私はあの時、自分を非難されているんだって思った。
嫌われてしまったと。
……真逆の意味だったなんて……。
「……ちゃんと、最初から本当のことをお互いに話していたら良かったんだよね……」
ポツリと私が漏らすと。
「今だからこそ言えるけど……それはどうかな……。
あの時、俺はまだまだガキだったから、きちんと知り合う前の沙穂が普通に話しかけてくれても、もしかしたら嫌な態度をとったかもしれないし。
付き合ってみて、どんどん沙穂を好きになっていったからさ……。
最初から気になって惹かれていたんだと思うけど、いつからかって言われたらハッキリしていないんだ。
ただ、沙穂は桐生とよくいるって話を聞いた時、自分でも驚くぐらいにイライラしたんだ。
俺がいるのに、何で桐生と、ってさ」
葵くんは私を腕に閉じ込めたまま私の頭に小さなキスを落とす。
「……そんな自分に驚いたんだ……」
独り言のように呟いて。