失恋相手が恋人です
葵くんは私の手に優しく唇で触れて。

「俺も新しい環境になれようと必死だったから余裕もなくしてて。
沙穂のことは気になっていたけど、俺も逃げてたんだ。
俺の中では別れたって実感もなかったからさ。
……一年くらい過ぎて、やっぱり沙穂と話そうと思って連絡したら、沙穂と連絡が全くとれなくなってて」

……それは私が消息を絶ったから。

「……ショックだった。
沙穂は本当に終わらせる気だったんだって。
連絡先すら変えるくらい、消息を絶つくらい俺から離れたかったのかって、愕然とした」

葵くんの頬に伸ばした手を下げる。

精一杯のごめんなさいを、伝えようと葵くんを見つめ返すと。

私の手を葵くんは握って自分の口許に持っていく。

その色っぽい仕草にドキリと私の心臓が震えた。

「……吏人に聞くこともできたけど、しようと思えなかったんだ。
……もう諦めようって本気で思ってた。
……けど偶然、東堂先輩がアメリカに赴任して……心配してくれててさ、俺、今までのこと、色々話したんだ。
歩美先輩が責任を感じてることも聞いて。
でも不思議なことに、歩美先輩の話を聞いても昔みたいに切なくなる、とかそんな感情が全く湧かなかったんだ。
むしろ……東堂先輩とうまくいっているようでよかったって思った。
その時、自分のなかで附に落ちたんだ」

唇がもう一度触れそうな距離まで葵くんは整った顔を近づけて。

「俺はやっぱり沙穂が好きなんだって」

言った後でまた優しく唇を重ねる。

私の顔が真っ赤に染まっていくのが自分でもわかる。

「……諦められなかったんだ」

心臓が早鐘を打つ。

私から目を逸らさない強い瞳に私は引き込まれそうになる。

「……私もどうしても諦めることができなかった……」

唇から零れていく私の本音を。

拾い上げるように、葵くんはまた唇を重ねる。
< 110 / 117 >

この作品をシェア

pagetop