失恋相手が恋人です
「いや、あのさ……」

「……何、隠してるの?
全部話すんじゃなかった?」

少し強い口調で詰め寄ると。

「うーん、大したことじゃないんだけどさぁ……まさか今日沙穂に会えるなんて思ってなかったから……ちょっと沙穂を驚かせたかったし……あ、でもストーカーじゃないからな」

イマイチ要領をえない葵くんの返答に。

「……何の話?
何で吏人くんが関係してるの?
吏人くんには連絡してないって言ってなかった?」

じぃっと睨み付けると葵くんは渋々口を開いた。

「……だからさ、沙穂、俺、帰国する時、親父の系列会社を退職したんだよ。
元々親父の会社に関わるのはもっと俺が成長してからって思ってたし、俺も他社で経験積みたかったから」

「……うん」

「……帰国するにあたって就職活動したわけ。
で、沙穂の就職先を吏人に聞いたんだよ」

「?」

……ちょっと待って。

「沙穂の就職先、俺が働きたい業界、会社だったからさ。
転職したんだよ、親父のことは伏せてもらう条件で」

怪しい雲行きに嫌な予感がする。

「……まさか」

「月曜日からずっと一緒だな」

何だか満足気な葵くん。

「ちょっ、ちょっと待って、何でそんなことっ……
私、聞いてな……」

言いかけて、ハタと考える。

そういや、梨華ちゃん……さっき何て言ってたっけ?

「……まさか、海外帰りのイケメン独身マネージャー……」

葵くんに指を指す私に。

「え?
もうばれてた?」

ニヤリと意地悪く笑う葵くん。

「ば、バレてたじゃないっ。
待って、いつから吏人くんと連絡とっていたの?
だって、東堂先輩も萌恵も葵くんの連絡先がわからないって……!」

「あー……東堂先輩は本当にさっき言った通りで。
吏人とはちょくちょく連絡とってたんだよ、沙穂を諦めないって決めてからは。
だから……どうせなら沙穂と同じ会社に入って、沙穂と距離を詰めて逃がさないようにしようって思ってたんだよ。
でも沙穂に気付かれて、また消息不明になられたら困るから、伊川さんにも黙っててくれって吏人に頼んだんだ」

知らない間に計画されていたことに唖然とする私に。

「……怒った?」

と甘い声で私の腰に手をまわして、顔を覗きこんでくる葵くん。

「……お、怒ってる……」

悔しくなって睨み付ける私に。

「ごめんって。
……でもそれだけ、沙穂に会いたかったし、傍にいたかったんだ……手放したくなかったんだよ」

……本当にズルい。

そんな甘い表情でそんなことを言われたら。

……許すしかなくなるのに。



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