失恋相手が恋人です
背が高い方に数えられる私だけど、桧山くんの方が私より頭一つ以上高いことに改めて気付く。
桧山くんは履いているデニムのポケットに手を入れたままで、屈んでじっと私の顔を覗きこんだ。
「……もしかして、この間、髪が絡まった人?」
「えっ、あっ、ハイ」
桧山くんがそのことを覚えていたことに驚いて、反射的に顔を上げる。
そこには整った顔に面白そうな表情を浮かべている桧山くんがいて。
気不味い状況だけど、本当に綺麗な人だなぁと改めて見惚れた。
無造作に着ている半袖の黒いTシャツも、桧山くんが着るとお洒落に見えて。
こんなに至近距離で彼の顔を見たことがなかった私は、ただ、ぼうっと彼を見つめていた。
「いいよ」
明るく彼はそう言って、私に手を差し出した。
「……へっ?」
私は目が点になり、言われたことが理解できずにいた。
「だから……。
ええと。
名前、何?」
「に、丹羽、沙穂です」
「うん、じゃ、沙穂。
今日からヨロシク」
極上の蕩けそうな笑みが向けられる。
「……ハイ?」
相変わらず間抜けな返事しかできない私。
そんな私に、呆れたような表情を浮かべて。
「だから、今、沙穂が俺にした提案。
失恋した者同士付き合いましょう、ってやつ。
受けるよ」
「ほっ、本当に!?」
「あぁ。
ただし、ルールを決めよう。
俺と沙穂は同士に近い形からのスタートだから、そうだな……。
今はお互いに何の気持ちもないわけだし。
ってかお互いのこと何にも知らないし。
お互いに好きな人が出来たら別れるってことでどう?
後は……お互いにあまり干渉しすぎない。
無理強いしない。
気持ちも何でも。
後は……一応付き合ってるわけだから、浮気はしない、かな。
それ以外は普通の恋人、友達みたいな感覚で」
お互いに何の気持ちもない、って言い切られたことが当たり前だけど、チクンと胸に刺さった。
そんな私の気持ちを知らない桧山くんは淡々と続ける。
「どう?」
意見を求められた私は何が何だかよくわからないままに頷く。
「じゃ、そういうことで。
俺は桧山葵、これからヨロシク」
相変わらず見惚れるくらいの笑みを浮かべて、彼は手を差し出す。
私よりも大きい手の平に、細くて綺麗な指。
短く切り揃えられた爪の形までもが綺麗で。
私は彼の顔と手を交互に見て、恐る恐るその手を握り返した。
彼の綺麗な手は私が思うよりも大きくて、温かった。
今、桧山くんと握手をしていることすら信じられないのだけれど。
「…よ、よろしくお願いします」
無理矢理絞り出した言葉は月並みなもの。
これが私と彼のお付き合い、の始まりだった。
桧山くんは履いているデニムのポケットに手を入れたままで、屈んでじっと私の顔を覗きこんだ。
「……もしかして、この間、髪が絡まった人?」
「えっ、あっ、ハイ」
桧山くんがそのことを覚えていたことに驚いて、反射的に顔を上げる。
そこには整った顔に面白そうな表情を浮かべている桧山くんがいて。
気不味い状況だけど、本当に綺麗な人だなぁと改めて見惚れた。
無造作に着ている半袖の黒いTシャツも、桧山くんが着るとお洒落に見えて。
こんなに至近距離で彼の顔を見たことがなかった私は、ただ、ぼうっと彼を見つめていた。
「いいよ」
明るく彼はそう言って、私に手を差し出した。
「……へっ?」
私は目が点になり、言われたことが理解できずにいた。
「だから……。
ええと。
名前、何?」
「に、丹羽、沙穂です」
「うん、じゃ、沙穂。
今日からヨロシク」
極上の蕩けそうな笑みが向けられる。
「……ハイ?」
相変わらず間抜けな返事しかできない私。
そんな私に、呆れたような表情を浮かべて。
「だから、今、沙穂が俺にした提案。
失恋した者同士付き合いましょう、ってやつ。
受けるよ」
「ほっ、本当に!?」
「あぁ。
ただし、ルールを決めよう。
俺と沙穂は同士に近い形からのスタートだから、そうだな……。
今はお互いに何の気持ちもないわけだし。
ってかお互いのこと何にも知らないし。
お互いに好きな人が出来たら別れるってことでどう?
後は……お互いにあまり干渉しすぎない。
無理強いしない。
気持ちも何でも。
後は……一応付き合ってるわけだから、浮気はしない、かな。
それ以外は普通の恋人、友達みたいな感覚で」
お互いに何の気持ちもない、って言い切られたことが当たり前だけど、チクンと胸に刺さった。
そんな私の気持ちを知らない桧山くんは淡々と続ける。
「どう?」
意見を求められた私は何が何だかよくわからないままに頷く。
「じゃ、そういうことで。
俺は桧山葵、これからヨロシク」
相変わらず見惚れるくらいの笑みを浮かべて、彼は手を差し出す。
私よりも大きい手の平に、細くて綺麗な指。
短く切り揃えられた爪の形までもが綺麗で。
私は彼の顔と手を交互に見て、恐る恐るその手を握り返した。
彼の綺麗な手は私が思うよりも大きくて、温かった。
今、桧山くんと握手をしていることすら信じられないのだけれど。
「…よ、よろしくお願いします」
無理矢理絞り出した言葉は月並みなもの。
これが私と彼のお付き合い、の始まりだった。