失恋相手が恋人です
食堂に足を踏み入れた途端。

女子学生の黄色い歓声が飛び交っていた。

「桧山くんが来てる!」

「今日来てたんだ、知らなかった!」

「夏休み以来よね、今日もやっぱりカッコいい……」

皆の視線のおかげで探す必要もなく。

窓際のテラス席に座っている葵くんと吏人くんを見つけた。

「吏人と一緒だったのね」

ボソリと萌恵が言って、私は頷く。

「友達って言ってたもんね……」

「あ、沙穂」

入口付近に目を向けた葵くんが私に気付いた。

「沙穂?」

吏人くんが私と葵くんを交互に見ながら、反芻する。

「うん、沙穂」

私は、というとキャーッっという女子学生の悲鳴のような叫びと、突き刺さるような視線が痛すぎて顔が真っ赤になる。

周りの叫び声に負けないくらい、心臓の音がうるさい。
萌恵がやれやれ、といった表情を浮かべて、周囲の視線をもろともせず、私を二人のテーブルに引っ張っていった。

「吏人……空気読みなさいよ」

「え?
何で?
ってか、沙穂ちゃん、桧山と?」

私が答える前に葵くんが立ち上がって私の隣に立った。

「うん、付き合ってる」

キャアアッッという再び周囲からのさっきより大きな悲鳴のような声。

あちらこちらから聞こえてくる。

目の前にはポカンとした表情の吏人くん。

普段冷静でしっかりしている彼には珍しい表情だ。

萌恵は眉間に皺を寄せていて。

葵くんは何故か笑顔。

私はどうしていいかわからず、林檎のように真っ赤になったまま固まっていた。



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