失恋相手が恋人です
皆のおかげで彼女、と言われる慣れない日々はそれなりに平穏に過ぎていき。
季節が変わり、私達は三回生になった。
三回生になると自然と意識する就職。
今や三回生の殆どがそのことを考えていて、私に関する噂は段々と無くなっていた。
葵くんと私は、というと。
あの日から特に何の進展もなく一緒にいた。
一緒にいる、という言い方が正しいのかもわからないけれど。
彼女だけれど彼女ではない、そんな線引き。
注目される以外に私の日常生活は変わることがなかった。
「お互いに干渉しない」と彼が出した条件の一つが忠実に守られていて。
時間が合う時は一緒に帰るけれど、無理に合わせたりはせず。
皆にお付き合い宣言をしたあの日以来、手を繋ぐこともなく。
クリスマス、お正月も一緒には過ごさず。
休日に二人で何処かに出掛けることもなく。
夜、彼に電話することも、かかってくることもなく。
特別な接点はなかった。
当たり前と言われると当たり前で。
私は建前だけの彼女だから。
大事にする理由もされる理由もない。
彼にしたらきっと、少し踏み込んだ女友達という立ち位置で。
けれど。
たまに見る優しい彼の表情に。
その言葉と仕草に。
私はいつも一喜一憂していた。
私の名前を呼んでくれる少し低めの優しい声。
教室に迎えに来てくれる時。
私を探してくれる表情と。
目が合った瞬間の笑顔。
講義の重い教科書をさりげなく持ってくれる手。
勘違いをしそうになるくらい彼のすべては優しくて。
会えない時は、顔を見ることができない時は、気持ちに蓋をしなくて済む、隠さなくて済むとホッとするのに。
やっぱり少しでも会いたくなる、声が聞きたくなる。
……体温の高い手に触れたくなる。
私の欲張りな希望を口には出せないから。
私は上手に上手に気持ちを隠す。
溢れそうになりそうな「好き」を隠す。
これから先叶うことのない片思いだから。
季節が変わり、私達は三回生になった。
三回生になると自然と意識する就職。
今や三回生の殆どがそのことを考えていて、私に関する噂は段々と無くなっていた。
葵くんと私は、というと。
あの日から特に何の進展もなく一緒にいた。
一緒にいる、という言い方が正しいのかもわからないけれど。
彼女だけれど彼女ではない、そんな線引き。
注目される以外に私の日常生活は変わることがなかった。
「お互いに干渉しない」と彼が出した条件の一つが忠実に守られていて。
時間が合う時は一緒に帰るけれど、無理に合わせたりはせず。
皆にお付き合い宣言をしたあの日以来、手を繋ぐこともなく。
クリスマス、お正月も一緒には過ごさず。
休日に二人で何処かに出掛けることもなく。
夜、彼に電話することも、かかってくることもなく。
特別な接点はなかった。
当たり前と言われると当たり前で。
私は建前だけの彼女だから。
大事にする理由もされる理由もない。
彼にしたらきっと、少し踏み込んだ女友達という立ち位置で。
けれど。
たまに見る優しい彼の表情に。
その言葉と仕草に。
私はいつも一喜一憂していた。
私の名前を呼んでくれる少し低めの優しい声。
教室に迎えに来てくれる時。
私を探してくれる表情と。
目が合った瞬間の笑顔。
講義の重い教科書をさりげなく持ってくれる手。
勘違いをしそうになるくらい彼のすべては優しくて。
会えない時は、顔を見ることができない時は、気持ちに蓋をしなくて済む、隠さなくて済むとホッとするのに。
やっぱり少しでも会いたくなる、声が聞きたくなる。
……体温の高い手に触れたくなる。
私の欲張りな希望を口には出せないから。
私は上手に上手に気持ちを隠す。
溢れそうになりそうな「好き」を隠す。
これから先叶うことのない片思いだから。