失恋相手が恋人です
蝉の声が響くようになってきた七月。

お互いにインターンも始まり、葵くんと益々顔を合わせることが少なくなっていた。

私自身も萌恵とゼミが一緒でなければすれ違ってしまうくらいに、仲の良い友達とも大学内で会わなくなっていた。

「やっぱり三回生になるとなかなか会わないねぇ」

久しぶりに顔を合わせた萌恵が言う。

今日は私達のゼミ担当教授の必修科目講義だ。

必修科目なだけあって、他の講義より皆の出席率は高い。

「おはよう、伊川さん、丹羽さん」

ドサッと私達の前の席に荷物を置いた人物。

「桐生くん、おはよう。
あれ?今週休みじゃなかった?」

萌恵が驚く。

桐生和臣くん、私達とゼミは違うけれど学部は同じ男子学生だ。

短めの前髪に、子犬みたいな大きな二重の瞳が印象的で、とても気さくで話しやすい。

私達の教授はグループワークが好きな人で、グループを組んでテーマにそった発表やレポート、ディスカッションをすることが多い。

現在、桐生くんは萌恵と私ともう一人の浅葉くんという男子学生とグループになっている。

ちなみに浅葉くんはまだ来ていないみたいで。

浅葉くんは桐生くんとは対照的に切れ長の一重の瞳にスッと通った鼻筋、クールな印象だ。

「え?
俺が休むのは来週だよ?」

大きな瞳をさらに見開いてビックリする桐生くん。

「そうだった?」

首をかしげる萌恵。

それから、講義がいつものように始まり、グループワークをこなしているとあっという間に時間が過ぎていった。

「始まるとあっという間だねぇ」

帰り支度をしながら私がポツリと言う。

「そうだね」

返事を返してくれたのは桐生くんだった。

「二人ともこれから何か予定ある?
なければちょっと続きをしたいんだけど……」

少し言いにくそうな表情で。

「ごめん、俺、来週休みになるから、迷惑かけないところまで詰めておきたくて。
来週までに俺の担当分、できるだけしておきたいなと思ってさ」

申し訳なさそうに言った。

「私は大丈夫だよ。
それより、そんなに休むこと気にしなくていいのに……
インターンだし、皆休んだりしてるし」

「私は一時間くらいなら大丈夫だよ、ちょっと約束があるから」

「吏人くん?」

小さく突っ込むと萌恵はちょっと赤くなって笑った。

「よかった、じゃ、少しだけ続きをしよう……丹羽さんは約束とかないの?」

私に気を遣ってか、桐生くんはもう一度聞く。

「大丈夫だよ」

私は、笑顔で答えた。


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