失恋相手が恋人です
「……本当に?」

確かめるようにもう一度聞かれる。

無造作にパンツのポケットに手を入れて。

何でもないことのように。

でもその表情は……苛立ち?それとも……不安気にも見える。

私の思い上がり?

「うん」

声が震えそうになったけれど、しっかり返事をした。

「……桐生は?」

「……桐生くん?何で?」

思いがけない名前に驚く。

「最近、桐生とずっと一緒にいるって聞いたから」

目を伏せながら葵くんが言う。

お昼前の強い日差しが彼の明るい髪を照らす。

交差点を行き交う女性が葵くんを見ては振り返る。

どんな場所でも注目される葵くんだけど、葵くんはそんな視線をものともしない。

「桐生くんはグループワークが一緒だから……なかなか皆が揃わなくて、捗らないことが多いから、残って一緒に作業したりはしているけれど……」

「二人で?」

「ううん、萌恵ともう一人、浅葉くんも一緒だよ。
偶然、桐生くんと二人になる時はあるけど……」

「……ふうん」

「どうして?」

思わず葵くんの瞳を見上げて尋ねると。

葵くんは心なしか顔を赤くして。

「……いや、最近、沙穂が桐生とよく一緒にいるのを見かけるって聞いたから……桐生を好きになったのかなって」

言葉の最後は小さな声で呟く。

「そうなの?誰から聞いたの?」

「……先輩」

その瞬間、嫌な予感が頭をよぎる。

「……歩美先輩?」

コクンと彼は頷く。

こんな形で歩美先輩の名前を耳にするとは思わなかった。

さあっと私の気持ちが水を浴びたように冷たくなる。

「そう……」

「言っておくけど、歩美先輩は失恋相手だから」

俯いた私に葵くんはいつもの声音でいう。

フォローなのか、わからないその言い方。

でもそれは全くフォローに聞こえなくて。

むしろ大切な人なんだと言われている気分になる。

……自分の心の狭さを認識してしまう。



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