失恋相手が恋人です
「桐生のことは……条件、だったから。
聞きたかっただけ」

彼は私の顔を覗きこんで言う。

見とれるくらいの顔立ちはいつもと何も変わらない。

今、その瞳には私しか映っていない。

でもそれは表面だけで。

彼が心から想って、瞳に映す人は私ではない。

考え出すと深みにはまるいつもの想い。

だから私は努めて明るく、無理矢理微笑む。

「あ、葵くん、インターンはどう?」

話題を変える。

「もう、業界決めてる?」

先に歩き出す。

信号が青に変り、足を踏み出した私のむき出しの腕をグッと掴まれた。

「……何で?」

「……え?」

「……何で急にそんなこと聞くの?
今まで何も聞いてこなかったのに」

感情が読み取れない声。

思わず振り向くと困惑気味の瞳にぶつかる。

「桐生に聞いたの?」

「……えっと」

言い淀んだ私の返事を彼は肯定ととったのか。

「本当に聞きたいのは俺の実家のこと?」

淡々と静かな声で言う。

怖いくらいに静かな声で。

「……どうして?」

「……俺が聞きたいよ。
沙穂はそんなんじゃないと思ってたのに」

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