失恋相手が恋人です
「……そんなんじゃない、って何?」

ポツリと言葉が漏れる。

「葵くんは……私の何を知っているの?」

私が言うべきじゃない、頭ではわかっている、でも止まらなかった。

「葵くんだって、私に何も聞かないし、言わないし。
だから私も何も言わないし聞かなかっただけじゃない。
干渉しないって葵くんが言ったからっ。
だけど、誰かに言われた言葉を鵜呑みにして疑ったり、急に押しかけてきたり。
自分の言いたいことだけさっさと言って……!
なのに、私が聞いたら不機嫌になるって、どうして?」

一気に言った。

葵くんは少しビックリした様に私を見つめて、ふぅっと息を吐いた。

「……ごめん」

私の腕を離す。

「そ、だよな……干渉しないって言ったのに……」

その言葉に私も少し冷静になり、慌てて言う。

「ち、違うの。
いきなり、ごめんなさいっ。
そういう意味じゃなくて、ただ、何て言うか、悪い方に全部とらないでほしかったの……」

上手く言えない自分がもどかしい。

だけど、これだけは言いたい。

「ご実家のこと、勝手に聞いてしまってごめんなさい。でも、詳しいこととかを聞いたわけではないの。
私が聞き出してしまったんだし、桐生くんは悪くなくて。
でも変な意味ではなくて、ただ、葵くんのことが知りたかったの。
干渉しないって言ったけど、い、一応私、失恋恋人だし……と、友達とは違うかもしれないけれど、友達に、近い存在なら知っておきたいなって……
でも……葵くんに直接聞くべきことだったのにごめんなさい」

言い訳にしか聞こえないけれど必死に続ける。

葵くんはふっと悲しそうに微笑んで。

「……俺の方こそごめん。
沙穂を傷つける言い方して。
聞いてくれても全然よかったし、たいした話でもないのに。
先輩だけじゃなくて、他の奴等にも沙穂のこと言われて……何て言うか……カアッとしてて」

気不味そうに瞳を泳がせる。

「好きな人ができたら別れるって話だったし、何て言うか、その時が来たのかって焦って。
……そうだよな、干渉しないっていってもお互いを知ることは大事だし。
それに沙穂は……友達じゃなくて」

言葉を切った葵くん。

否定的なことを言われるのかと無意識に身構える私の手をすっと握って。

「……友達よりずっと近い大事な失恋恋人でしょ?」

いたずらっ子みたいな瞳で私を覗きこんだ。

私は真っ赤になってしまって。

「……っ」

何にも言えなくて。

やっぱり私は葵くんにはかなわないと思い知らされた。


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