失恋相手が恋人です
それから私達は交差点のすぐ近くにあるカフェに入った。

葵くんはご実家の話、インターンの話、就職の話を私にしてくれた。

内容は桐生くんの話とほぼ同じで。

ご実家は建設業を営んでいるから、跡を継ぐのはお兄さんらしいのだけど、自分もそこに携わりたい、と照れながら話してくれた。

名前を聞くと私でも知っている大企業で驚いてしまった。

御曹司という噂は、あながち嘘ではなかったみたい……。

ただ、そのままご両親の会社に入社、とは考えていなくて修行のためにも他社に行きたいと言っていた。

私には想像もできない大きなスケールの話だったけれど、その話をしてくれたことが嬉しかった。

失恋恋人な立場だけれど、彼の就職を応援できたらなと思った。

私自身も今の自分が考えている就職のこと、業界のこと、講義のことを話した。

気が付いたときには長い時間が経っていた。

でも私にはその時間が何より嬉しかった。

葵くんを以前よりもっと知ることができて近くに感じられるように思えた。

葵くんのテリトリーに入れてもらえた気がした。

……たとえニセ物の恋人でも。

今は一番近い、と言ってくれた葵くんの言葉をただ喜びたいな、と思った。

そして葵くんに、好きな人ができる日が遠ければいいのにと願わずにはいられなかった。

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