失恋相手が恋人です
「本当にね、桧山くんがそんな甘い性格だと思わなかったけれど」
呆れ顔で萌恵は陳列されている暖かそうなウールのカーディガンを手に取った。
あれから季節は過ぎて、今は新年を迎えていた。
今日は萌恵と年明けのセールに近くにあるショッピングセンターに来ていた。
「でも残念ね、せっかく初めてのクリスマス、お正月っていう一大イベント、一緒に過ごせなかっただなんて」
気遣わし気な萌恵の表情に、私は黙って頷く。
「……うん、クリスマスは私がインフルエンザにかかっちゃって……一緒にレストランに行く予定だったんだけどね……。
うつしちゃうわけにはいかないし。
お見舞いにいくって言われたけれど、断固拒否して。
だけど初詣は葵くんが発熱しちゃって、一緒に行けなくなっちゃって……」
「桧山くんって実家住まいだっけ?」
「……うん、だから看病とかは要らないって言われてて。
お見舞い行った方がいいのかなって迷ったんだけど、私と付き合ってることとかご両親に話しているかわからなくて……もし話していなかったら体調が悪い時に押しかけてもただの迷惑なだけだし……」
溜め息をつく私。
「確かにねぇ、あ、でも桧山くんのあの態度からしたら、ご両親には話してそうだけど」
萌恵が白いコートを試着しながら私に相槌をうつ。
「でも、ご両親ってお仕事で殆ど海外にいらっしゃるみたいで。
お手伝いさんがいらっしゃるみたいなんだけど……。
熱で苦しんでいる葵くんに、私のこと話したかどうかなんて聞けないし」
再び溜め息の私。
「それに、今年は私達もう四回生になるでしょ?
就職活動も本番になるし。
葵くん、あんまり話してくれないんだけど、どうやらお父様の系列会社に入るよう言われているみたいなの。
でも葵くんは全然ご実家と関係ない企業に入りたいみたいで。
それもお父様と揉めてるって言ってて……」
「……何か大変ね。
それは沙穂のこと話せる雰囲気じゃないわね」
私に返事をして、萌恵は迷っていたウールのカーディガンをレジに持っていった。
会計を済ませた萌恵と店を出て、コーヒーショップに入る。
「葵くんに、きちんとあの時話をしなかったからかな……」
オーダーを終えて、運よく座れた窓側の席で私は俯く。
「何のこと?」
「葵くんに告白された時、明らかに葵くんは誤解していたみたいだったのに、私、訂正できなかった。
失恋相手が葵くんで私は最初からずっと葵くんが好きだったって言えなかった……ううん、言わなかったんだよ」
「沙穂、ね?
その話はあの日くれた電話でもしたでしょ?
桧山くんが拒んだんだし、二人で過去の恋愛を遡らないって決めたんでしょ?
もう過ぎたことなんだよ。
沙穂だって歩美先輩とのことちゃんと聞いてないでしょ?
お互い様なんだよ?」
私を説き伏せるかのようにゆっくり、真剣に言葉を続ける萌恵。
「……わかってる、わかってるよ。
だけど、言おうと思えば言えた筈だし。
……結局私が逃げたんだよ、私が嫌われたくなくて」
それはずっと私が気にしていること。
いくら言わなくていいとは言われても。
言うべきことではあった筈。
葵くんはいまだに大学内に私が好きだった人がいると思っていて。
大学内で男子学生と少しでも一緒にいることを嫌がる。
呆れ顔で萌恵は陳列されている暖かそうなウールのカーディガンを手に取った。
あれから季節は過ぎて、今は新年を迎えていた。
今日は萌恵と年明けのセールに近くにあるショッピングセンターに来ていた。
「でも残念ね、せっかく初めてのクリスマス、お正月っていう一大イベント、一緒に過ごせなかっただなんて」
気遣わし気な萌恵の表情に、私は黙って頷く。
「……うん、クリスマスは私がインフルエンザにかかっちゃって……一緒にレストランに行く予定だったんだけどね……。
うつしちゃうわけにはいかないし。
お見舞いにいくって言われたけれど、断固拒否して。
だけど初詣は葵くんが発熱しちゃって、一緒に行けなくなっちゃって……」
「桧山くんって実家住まいだっけ?」
「……うん、だから看病とかは要らないって言われてて。
お見舞い行った方がいいのかなって迷ったんだけど、私と付き合ってることとかご両親に話しているかわからなくて……もし話していなかったら体調が悪い時に押しかけてもただの迷惑なだけだし……」
溜め息をつく私。
「確かにねぇ、あ、でも桧山くんのあの態度からしたら、ご両親には話してそうだけど」
萌恵が白いコートを試着しながら私に相槌をうつ。
「でも、ご両親ってお仕事で殆ど海外にいらっしゃるみたいで。
お手伝いさんがいらっしゃるみたいなんだけど……。
熱で苦しんでいる葵くんに、私のこと話したかどうかなんて聞けないし」
再び溜め息の私。
「それに、今年は私達もう四回生になるでしょ?
就職活動も本番になるし。
葵くん、あんまり話してくれないんだけど、どうやらお父様の系列会社に入るよう言われているみたいなの。
でも葵くんは全然ご実家と関係ない企業に入りたいみたいで。
それもお父様と揉めてるって言ってて……」
「……何か大変ね。
それは沙穂のこと話せる雰囲気じゃないわね」
私に返事をして、萌恵は迷っていたウールのカーディガンをレジに持っていった。
会計を済ませた萌恵と店を出て、コーヒーショップに入る。
「葵くんに、きちんとあの時話をしなかったからかな……」
オーダーを終えて、運よく座れた窓側の席で私は俯く。
「何のこと?」
「葵くんに告白された時、明らかに葵くんは誤解していたみたいだったのに、私、訂正できなかった。
失恋相手が葵くんで私は最初からずっと葵くんが好きだったって言えなかった……ううん、言わなかったんだよ」
「沙穂、ね?
その話はあの日くれた電話でもしたでしょ?
桧山くんが拒んだんだし、二人で過去の恋愛を遡らないって決めたんでしょ?
もう過ぎたことなんだよ。
沙穂だって歩美先輩とのことちゃんと聞いてないでしょ?
お互い様なんだよ?」
私を説き伏せるかのようにゆっくり、真剣に言葉を続ける萌恵。
「……わかってる、わかってるよ。
だけど、言おうと思えば言えた筈だし。
……結局私が逃げたんだよ、私が嫌われたくなくて」
それはずっと私が気にしていること。
いくら言わなくていいとは言われても。
言うべきことではあった筈。
葵くんはいまだに大学内に私が好きだった人がいると思っていて。
大学内で男子学生と少しでも一緒にいることを嫌がる。