失恋相手が恋人です
卒業してからあっという間に三年が経って。

私が吏人くんや萌恵に根回しする必要もなく、あれから一度も葵くんから連絡はなかった。

……今頃はきっと歩美先輩と幸せな毎日を過ごしているのではないかと思う。

それは私が何よりも願ったこと。

嘘をつき続けた私に唯一できたこと。

そう自分に言い聞かせて、前だけを見て、今日まで過ごしてきた。

少しでも気を抜いたら、立ち止まってしまったら、隙間から想いが思い出が零れてくる。

だけど、それでも。

相反しているけれど、私の毎日は今、穏やかで幸せだ。

仕事も最初は慣れなかったけれど、周囲の人々に親切に教えてもらって何とか人並みにはこなせるようになった。

先輩方も優しく接してくださり、嫌な思いは入社以来したことがない。

新しく引っ越したマンションも駅に近く、勤務先へのアクセスもいい。

それでも、どんなに前を向こうと思っていても、願っていても。

夜中に泣きながら目が覚める自分がいる。

どうしようもない寂しさと二度と会えない人への恋しさで。

広い世界に一人で放り出されたような心細さに似ていて。

抱きしめてくれた温かい腕を思い出す自分がいて。

私の名前を呼んでくれる低い優しい声を思い出してしまって。

そんな時は、できるだけ自分の気持ちに蓋をする。

見ないふりをする、限界まで。

一度閉じた蓋を開けてしまったらきっともう際限なく気持ちが溢れてしまうことがわかるから。

その時はきっともう私は立ち直れない。

それがとても恐い。

こんな思いをするくらいなら最初から離れなければ良かった……?

何度もそう考えた。

黙っていれば良かった……?

何度も自問自答した。

だけど、出口はいつも同じで。

あの時の私は、ああすることが精一杯だった。

逃げるように自分の痕跡を消して。

関わりを絶って。

できるだけ見て見ぬふりをしながら、この四年間をやり過ごしてきた。

それはやっぱり間違えているのかもしれない。

だけど、それしかもう方法がない。

他に好きな人が見つかれば、恋をすれば違うのかもしれないけれど。

……きっともう、私は。

葵くん以上に好きになれる人に出会える気がしないから。

今はただ毎日を同じように過ごすだけしかできずにいる。


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