失恋相手が恋人です
驚いた私は、走ったせいで流れる汗を拭うことも忘れて立ち尽くしていた。

「……沙穂、とりあえず座ったら？」

萌恵がおずおずと私に声をかけた。

私はハッとして、萌恵の隣に座った。

「沙穂ちゃん、綺麗になったね」

もう一度、歩美先輩が穏やかに私に声をかけた。

どう反応していいかわからない私は萌恵を見た。

どうしてここに、歩美先輩がいるの……？

そんな私の疑問に答えるように歩美先輩が口を開いた。

「二人の女子会にいきなりお邪魔しちゃってゴメンね。
……どうしても沙穂ちゃんに会って話したいことがあって、吏人くんに会えるように頼んだの」

申し訳なさそうな表情を浮かべる歩美先輩。

「それで吏人から連絡、というかお願いがきて、歩美先輩と直接話したの」

萌恵が続ける。

「最初は私も吏人も意味がわからなかったのだけど……、沙穂、先輩の話を聞いてあげて」

私は困惑して俯いた。

今更、歩美先輩と何を話せばいいのだろう。

……葵くんのことはもう聞きたくないのに。

膝の上で固く拳を握る。

得体のしれない緊張が全身にはしる。

「私ね、先月入籍したの」

……心臓が止まったような気がした。

ドキン、ドキンと自分の鼓動が信じられないくらい大きく速く響く。

今すぐに立ちあがって、耳を塞いで逃げ出したい衝動にかられる。

目の前の歩美先輩の笑顔を辛すぎて見ることができない。

……入籍？

頭の中で同じ言葉を何度も反芻する。

「正樹とね」

「……へ？」

間抜けな声が出る。

正樹、って……まさか。

「……と、東堂先輩とですか？」

反射的に顔を上げて歩美先輩の顔を見る。

「そうよ」

再びニッコリ笑う歩美先輩。

隣の萌恵も大きく頷く。

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