つま先で一歩
「…結構若い人もいるんだ。」

ちょっと意外だったかも。

服装で色気を出そうとしている人はちょっとイメージに合わないな、そんな事を考えながら見ていると何となく気付くことがあった。

オトナを探していくと何となく内側から色気がある人に目がいくような気がして。

「やっぱり色気がある人が多い気しません?須藤さん。」

このバーにいるお客さんは皆が皆、異性と来ている訳じゃないけど、妙に色気がまとわりついてるように感じた。

しっとりというか、通常よりも低いところをいくというか。

「確かに。余裕すらも感じる。」

「ですよね。」

「僕はちょっと分かってきたかも。」

オトナを?そう聞きたくても言葉が続かず表情で答えを求めてしまう。

2年先を歩く人の余裕か須藤さんは視線だけで他のお客さんを見ながら控えめな声で話始めた。

「背伸びなんじゃないかなって。」

例えばいつもより少し高いお酒にしよう、高い位置から街を見下ろしてみよう。

「ほんの少しの贅沢というか、自分の位置をちょっとでも上げるような感じなんじゃないのかなって気がした。」

例えこれが間違いだとしても知ったかぶりをしてみるみたいなね、そう続けると須藤さんは微笑んでグラスを口につけた。

その姿はいつもよりも艶やかで、会社での雰囲気とは違う大人な姿だ。

暗めの照明が須藤くんの表情を照らせばグッと色気を出して私の目に飛び込んでくる。

爽やかで清潔感があって真面目で、積極的にいくよりも後方支援をするタイプの須藤さんはいつもの控えめな姿を色替えして私の隣にいる。

落ち着いた大人の男性だと。

「須藤さんはもうこの空気に溶け込めるんですね。」

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