つま先で一歩
目の前に現れたエレベーターのボタンを押してすぐに開いた扉に幸運を喜びながら逃げ込んだ。

「ああ~ダメ!部屋にいけない!」

宿泊フロアには止まらないエレベーターに嘆いたもののとりあえず1階のボタンを押して閉じるボタンを連打する。

後で探せばいい、今は少しでも早く部屋にいって布団を頭からかぶって閉じこもりたいの!

願いが通じて扉が閉まりかけたその時、機内に衝撃が走って私は顔を上げた。

「森川さん、ちょっと待って。」

手でドアを止めた須藤さんが息を切らしながら乗り込んでくる。

あー終わった。

人生の終わりを悟ってさすがに泣けてきた。

無情にも静かに扉は閉まってエレベーターは動き始める。

何行きだこれは、奈落の底行きか。

「それってこのホテルの部屋の鍵?」

「…はい。」

「誰かと泊まる予定だった?」

「…いえ、一人です。」

「…どうして?」

「ちょっと熱が入り過ぎちゃって…大人体験するならバーの後は部屋でしょうってウキウキしながら予約しました。」

「ウキウキ…。」

「ちょうど明日誕生日だったので…自分へのご褒美って思って。ダブルベッドのちょっといい部屋を。」

恥ずかしい。

全部終わった後でネタとして話すならまだいいのに現場を見られるこの恥ずかしさは拷問だ。

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