つま先で一歩
あまりの辛さに須藤さんの靴でさえも見れないくらい私は自分の足元から視線を動かせなかった。

早く着いて、でも須藤さんに離れた後の行動を知られたかと思うと着いてほしくない気持ちが出てくる。

もう恥ずかし過ぎて消えたい。

「…それってさ、僕が一緒に泊まったら迷惑?」

幻聴か?

突然予期せぬ方向から降ってきた言葉が理解できずに私はぎこちなく首を右だ左だと傾げゆっくり顔を上げた。

「え?」

そこには顔を赤くした須藤さんが恥ずかしそうにして立っている。

「…っええ!?」

ようやく意味が分かった私は今まで以上に顔が熱くなって思わず両手で冷やそうと頬に当てた。

「明日が誕生日って知ってたからプレゼント用意していて、いや…違うな。」

「ずっと森川さんの事が好きだった。誕生日を一緒に過ごさせてくれる?」

また違った衝撃に手からカードキーが落ちそうになる。

ダブルルームにしたのはもしかしてという願いを込めて。

もしくは妄想に浸ろうと思って決めたんだけど、まさかの展開が私を迎えてくれるなんて。

ぎこちなく頷けば須藤さんは安堵の深い息を吐くと照れ笑いして頭を掻いた。

遠慮がちに伸びてきた手は私の手をさらって優しく包み込む。

ちょうどその時にエレベーターは目的階について扉を開けた。

「行こう。」

言葉では促しても私の足が動くのを待ってくれているのが分かる。

一歩須藤さんに近付けば後は何も考えずに自然と身体が動いていった。

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