忘れ物 ~ホテル・ストーリー~

「よかったわ。このホテルに泊まって。主人とも約束してたのよ。日本に来るなら、虎の門ホテルにまた泊まろうって」

「ありがとうございます」

「ユーリ、お礼を言うのは私の方よ。素晴らしい時間を過ごせたわ。今は、あなたが日本にいる私の娘のように思えるの。それから、これは、お節介だけど」
と断って、彼女はチーフコンシェルジュそっと微笑みかけた。

彼女は、友里恵近づいて耳にささやくように言う。


「カキは彼の仕業ね。彼、本当に抜け目ない人ね。今度ここに来るときは、どんなサービスをしてくれるのかしら。本当に楽しみね。でもその前に。今度会うときは、あなたはきっと深田友里恵になってるわね。彼なら間違いないもの。安心して彼に任せておきなさい」

「えっと、あの？どういう意味でしょうか？」
不意を突かれて、仕事中だというのに顔が赤くなる。

「さあ、どうかしら……」
カトリ－ヌ・ドゥシャン女史が、友里恵と深田を交互に見つめている。


「また来るわ。やっぱりここに来てよかった」


友里恵は、カトリ－ヌ・ドゥシャン女史が出て行くのを深く頭を下げて見送った。

隣で深々と頭を下げている深田洋一を十分意識しながら。