忘れ物 ~ホテル・ストーリー~
極め付けが食事だった。
「ああ、どうしても私、カキが食べたいわ!クリスマスと言えばカキですもの」
「はい……カキでございますね」
「そう、カキ。よく冷やしてきゅっとレモンを絞るの」
友里恵はすぐ手配しますと言って事務室戻った。
カキ、カキと呪文のように唱えた。
事務室にに深田洋一がいた。
「深田さん、カキって生ガキのことですよね」
「フランス人だろ?それはそうだ。どのこの産地がいい?」
「えっと」
「聞いてないなら、早く確認しろ」
「はい」
友里恵は伝書鳩のように客室と事務所を行ったり来たりする。
カトリ-ヌ・ドゥシャン女史のもとに帰る頃には、うっすらと汗がにじんでいた。
友里恵は、深田の言う通り女史に質問した。
「宮城産にして。お若い方あなたは、フランスのカキと宮城のカキのエピソード知ってますか?」
「いいえ、申し訳ございません」
「何事もお勉強よ。若いんですもの」
カトリ-ヌ・ドゥシャン女史は、フランスでカキが病気にかかって全滅しそうだった時、宮城県のカキを送ってもらい、急場がしのげたことを教えてくれた。