忘れ物 ~ホテル・ストーリー~
あわただしく日程が過ぎていった。
スタッフも、彼女に走り回された日々であったけれど、忘れられないお客様の一人になった。
そして、とうとうカトリ-ヌ・ドゥシャン女史とお別れする時間がやって来た。
「ああ、ちょっと待って。思い出した.カトリ-ヌ・ドゥシャン女史って確か五年前に、夫婦でここに泊まってたよな」予約係の飯田が何か思いついたのか、友里恵のところにやって来た。
「はい」
「もしかしたら、その時の忘れ物があったかもしれない」
「えっと……」友里恵は、横にいる深田の顔を見つめる。
「悪いが、心当たりがあるなら探してきてくれないか?」
深田がお願いしますと言って、年上の同僚に頭を下げた。
「わかった。すぐ取って来るから女史を引き留めておいて」
飯田が探してくると言って、事務室を出て行った。