こじれた恋の終わらせ方
「千尋!」


そう呼ばれて振り返るとのぞみが立っていた。


立ち止まった俺に、のぞみは走り寄ってきた。


「帰るの?」


そう言って俺を見上げる顔は相変わらず可愛いと思う。




「うん。まぁ。」


二次会に向かうメンバーの後姿が目に入った。

いまだに動揺が収まりきれてなくて、一人になりたいだなんて言えるはずもなく、曖昧にごまかした。



「ちょっと話したいんだけど、時間ない?」



そう尋ねられて、のぞみを見ると、真剣な顔でこっちを見ていた。



あまり良い別れ方だったとは思わないが、付き合っていた時の思い出は楽しかったものばかりだ。


そんな相手に真剣な顔をされて無下にはできない。



「いいよ。」


そう返事をした。



のぞみと入ったのは、女の子が好きそうな居酒屋。


男同士では絶対に来ないようなところだった。



向かい合わせに席について、とりあえずビールを注文した。



ビールを待ってる間、沈黙が流れた。


話があると連れてこられた俺はとりあえずのぞみが話し出すのを待つことにした。



ビールが運ばれてくると、のぞみはそれを一口飲んだ後、意を決したように話し始めた。



「私、千尋に謝りたくって。」


その言葉に、俺は首をかしげた。


「何か謝られることあったっけ?」


「卒業式に言ったこと。」


それは今日、九条を見たときから俺の頭を離れないあの言葉。



「ああいえば、千尋はぜったいに麗華に会わないと思ったの。」


その言葉に俺は固まった。
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