Mysterious Lover

そういわれて見渡すと……
「え……そう、かなあ? なんで?」

確かにそういわれてみると、営業や総務のエリアから、女子社員が固まってこっちをチラチラ見てる、ような。

「ふっふっふ」

何よ、その悪代官みたいな笑顔は?

「ほら、今日さ、例の新人くんが初出社の日なのよ」

「ああ……今日だっけ?」
なるほど、ってわたしは一人うなずいた。

うちはほとんどの社員が中途採用だから、そろそろ残暑が和らいで過ごしやくなってきたかな、っていうこの時期に新人がくるって、それ自体はとりたてて珍しいことじゃないんだけど。
どうして今回の彼がそんなに注目されているのか、っていうと……

「そんなにイケメンなのかな?」

「さぁねえ、加藤ちゃんでしょ、情報源。あの子、ヨシモトの誰か、おっかけやってるっていうし。美的感覚、あたしは怪しいと思うけどねえ」

わたしと翠、顔を見合わせて笑っちゃった。

なんでも、面接に来ていた彼を見た総務の女子社員が、「そこいらの芸能人なんかお話にならないレベルのイケメンだ」、って大騒ぎしたらしいの。それでみんな過剰反応しちゃってるってわけ。

「ほんとにイケメンだったら、あたしもがんばっちゃおーかなー」

「あのねえ、翠は彼氏いるでしょ?」

「まだ結婚してないから大丈夫」

どういう基準よそれ……。
彼氏くんにちょっと同情。
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